1600年頃にイタリアのフィレンツェでモノディー様式とともにオペラが誕生しましたが、それを開発したのはフィレンツェで古代ギリシャの音楽劇を研究していたフィレンツェのカメラータ(仲間の意味)と呼ばれる人たちでした。1580年頃から貴族や学者、哲学者や詩人、音楽家たちが集まり、古代ギリシャの劇の再現を試みました。こうしてハープやキタラ、リュートなどの和声楽器の伴奏でセリフが歌うように語られるとともに、中世から続く典礼劇や歌芝居、多声のマドリガーレ風に歌いながら喜劇を演じるマドリガル・コメディ、音楽付きの牧歌劇、芝居の幕間に上演されていたインテルメディオなどの要素が加わって新しい音楽劇オペラが生まれたのです。
その最古のオペラは《ダフネ》(1598年)とされていますが、残念ながら楽譜が残っていません。楽譜が現存する最古のオペラは1600年にフランスのアンリ4世とメディチ家のマリア姫の結婚を祝って上演されたペーリの《エウリディーチェ》(カッチーニと共作)です。このような初期オペラにはギリシャ神話を題材にしたものが多いのが特徴です。
フィレンツェで上演されたオペラは北イタリアの宮廷人たちの間で話題になり、同様の作品が生まれました。なかでも今日もっともよく知られているのが、モンテヴェルディの《オルフェオ》(1607年)です。その後オペラは一時期ローマで流行したのちに、ヴェネツィアで新しい展開を迎えます。
それまでのオペラは宮廷で限られた招待客のためだけに上演されていたのですが、ヴェネツィアで入場料を払えば誰でも鑑賞できる劇場が誕生しました。その先駆けとなったのが、1637年に開設されたサン・カッシアーノ劇場。興行師の目論見は当たって次々とオペラ劇場が開設されました。当時のヴェネツィア・オペラで今日でもしばしば上演される作品にモンテヴェルディによる、晩年の2作《ウリッセの帰郷》(1640年)と《ポッペアの戴冠》(1642年)があります。当時のヴェネツィア・オペラはシンプルな通奏低音のみの伴奏によるレチタティーヴォ・セッコや合奏を伴うレチタティーヴォ・アッコンパニャート、アリア、器楽曲、重唱曲からなり、機械仕掛けの舞台装置が人気を呼びました。
▲ヴェネツィアのサン・ジョヴァンニ・グリソストモ劇場
イタリア以外のオペラには英語の歌曲やオペラ《ダイドゥーとイニーアス(ディドーとアイネーアース)》を作曲したイギリスのヘンリー・パーセル Henry Purcell(1659年~1695年)やルイ14世の時代にフランス独自の音楽劇を創設したジャン・バティスト・リュリ Jean-Baptiste Lully(1632年~1687年)の名を挙げておきましょう(リュリの創造したフランス独自のオペラについては後期バロックのコーナーで再び取り上げます)。