オペラは17世紀中頃にヴェネツィアで隆盛を見た後に、世紀後半のナポリが主な舞台となります。当時のナポリはスペインの支配下にありましたが、1640年頃からナポリ副王の宮廷で盛んにオペラが上演されるようになり、さらに孤児のための慈善院が音楽院となってからは、そこで学んだ歌手や作曲家がイタリア国内外でオペラの作曲家として活躍するようになったのです。このようにナポリで学んだ、あるいはナポリ風のスタイルで作曲した作曲家のことをナポリ派(またはナポリ楽派)といいます。代表的な作曲家を挙げておきましょう。
◎プロヴェンツァーレ Provenzale(1626年頃~1704年)
◎アレッサンドロ・スカルラッティ Allesandro Scarlatti(1660年~1725年)
◎ジョヴァンニ・バッティスタ・ボノンチーニ Giocannni Battista Bononcini(1670年~1747年)
◎ニッコロ・ピッチーニ Niccolo Piccinni(1670年~1800年)
◎ニコラ・ポルポラ Nicala Porpora(1686年~1768年)
◎ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ Giovannni Battista Pergolesi(1710年~36年)
◎ニッコロ・ヨンメッリ Niccolo Jommelli(1714年~74年)
ナポリ派のオペラの音楽的特徴は以下の通りです。
序曲は急緩急の3つの部分からなるイタリア式シンフォニア、アリアはダ・カーポ形式(ABA´)、ナポリ6度と呼ばれる和音です。
またナポリ派のオペラにはゼーノ Zeno(1668年~1750年)とメタスタージョ Metastasio(1698年~1782年)の二人の台本作者が大きな役割を果たしました。彼らはそれまでのヴェネツィア・オペラの複雑なストーリーを改め、劇の展開に統一性を与えて古典的な均整の取れた台本をいくつも書きました。彼らの台本は出版されて様々な作曲家によって作曲されました。ナポリ派のオペラは、歌手の名人芸的な歌唱を披露する場であり、男性の高音歌手カストラート(少年時代に去勢手術を行ない、成人しても声変わりをしないため力強い高音が歌えます)が活躍し、主役を演じました。
▲人気、実力ともに最高と言われた名カストラート
ファリネッリ(本名カルロ・ブロスキ 1698年頃~1756年)
大小さまざまな諸侯や公国からなるイタリアやドイツと違ってイギリスとフランスは17世紀の初頭に近代的な中央集権国家の政治体制をとっていました。ここでは文化的音楽的に他の諸国に大きな影響を及ぼしたフランスについてみていきましょう。
フランスのルイ14世(治世1643年~1715年)の即位はわずか5歳だったのでしばらくはフロンドの乱など内政不安が続いたものの、1661年に親政を開始してからはすべての権力を集中させる絶対王政による中央集権国家を確立します。そして長い歳月をかけてヴェルサイユ宮殿を完成させると、そこを中心にして華やかな宮廷文化が繰り広げられました。それはルイ15世とルイ16世の時代にまで続きます。
▲ルイ14世(1638~1715/位1643~1715)
まず、バロック中期のオペラのコーナーでも述べたようにジャン・バティスト・リュリが、フランスの貴族社会で愛好されたバレエと歌や合唱、器楽などを融合させたフランス独自の歌劇を創造します。
さらにヴェルサイユ宮殿の三つの音楽部門、宮廷礼拝堂楽団、宮廷室内楽団、大厩舎(宮廷野外音楽隊とも)、王の24のヴァイオリン隊などで様々な音楽家が活躍しました。彼らをヴェルサイユ楽派といいます。
▲ヴェルサイユ宮殿(1668年頃)
宮廷礼拝堂楽団ではクープラン一族のフランソワ・(大)クープラン(1668年~1733年)、ルイ・マルシャン Louis Marchand(1669年~1732年)、《カッコウ》で有名なダカン Louis-Claude Daquin(1694年~1772年)。
▲フランソワ・(大)クープラン(1668年~1733年)
♪ クープラン:恋のうぐいす(冒頭のみ)
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宮廷室内楽団にはリュート奏者ド・ヴィゼ Robert de Visée(生没年不詳)、クラヴサン奏者・オルガン奏者のドラランド Michel-Richard Delalande(1657年~1726年)、チェンバロ(クラヴサン)音楽ではシャンボニエール Jacques Champion Chambonniéres(1601 or 02年~1672年) 、ガンバ奏者のマラン・マレ Marin Marais(1656年~1728年)、フォルクレ Antoine Forqueray(1671/72年~1745年)、フルート奏者など木管楽器の音楽家を多く輩出したオトテール一族のジャック・マルタン Jacques-Martin Hotteterre le Romain(1674年~1763年)は、魅力的なフルート音楽やフルートのための教則本を著わしました。
この頃のフランスの器楽の特徴は、舞曲型式の楽曲やトリルやモルデントなど細かな装飾音にあり、とくに後者にはルイ15世紀以後のフランスの貴族社会で流行したロココ芸術と共通するものです。また、ヴェルサイユ宮殿とは直接関わりはなかったものの、歌劇や室内楽、鍵盤音楽の傑作を残しバロック音楽に大きな貢献をした人にジャン・フィリップ・ラモー Jean-Philippe Rameau(1683年~1764年)がいます。
▲ロココ芸術の絵画「シテール島への巡礼」アントワーヌ・ワトー(1684年~1721年)