音楽に込められたストーリーをわかりやすい説明でひも解いていきます。
久行敏彦
第13回 目次
裕福なユダヤ人の家庭に生まれたメンデルスゾーン(1809~1847)は生涯にたくさんの作品を残しました。神童と言われた彼の才能は、12歳の時に書かれた「弦楽のための交響曲」や14歳の「ヴァイオリンコンチェルト」においてすでに確立されていたことをうかがわせます。
そんな早熟の天才作曲家にありがちな運命なのですが、メンデルスゾーンの生涯は38年というとても短いものでした。そのような人生であってもよき伴侶と出会い、5人に子供に恵まれました。幸せを絵にかいたような家庭であったと想像できます。
彼のピアノ曲に「Lieder ohne Worte Op.38」という曲集があります。この中の「デュエット」という曲について、簡単な分析を交えて演奏解釈についてのお話をさせていただきます。
まずはじめに、ソプラノの音域で4小節のテーマが奏でられます。(女性の主題)
右手は分散和音とメロディの両方を担当しています。メロディは3、4、5の指のみで弾かれるので繊細な、か細い音色に弾いてもらえるように作られています。これは何でもない事のようですが、主題のもつ性格を演奏面で際立たせるためにはとても重要なことです。
次にテノールの音域で4小節のテーマが応えます。(男性の主題)
女性の主題と対照的に、主題に使われている20個の音符のうち17個までが右手の1の指で弾かれるので、タッチの強い、たくましい音色で弾かれるように作られていることになります。
この女性の主題から男性の主題への流れは、とても自然な流れで引き継がれます。その理由を一つ上げるとするならば、女性の主題がAs dur(変イ長調)のⅤの和音(次にⅠの和音が欲しくなるような状態)で終わっているのに対し、男性の主題がⅠの和音で始まりますから、あたかも男性が女性の声によく耳を傾け、心のこもった返答をしているかのようなたたずまいの音楽に聴こえるわけですね。